hamburger overlay

血糖自己測定器(SMBG)の歴史

 

 

より良い血糖コントロールが大切な糖尿病治療。血糖自己測定器の開発は、それまで病院の採血でしかできなかった血糖値測定を、患者さま自身が家庭等でいつでも行えるようにした点で、糖尿病治療を大きく変えることになりました。ここではロシュDCジャパン社における製品開発の歴史を中心に、血糖自己測定器の歴史をご紹介します。

 

1956年 ロシュ(旧ベーリンガーマンハイム社)が、ライセンス供与を受け、ドイツで尿糖試験紙の販売を開始。その後自社での試験紙開発に着手。
1968年 ロシュ(旧ベーリンガーマンハイム社)初の尿試験紙を発売。
1969年 光学反射率を利用した血糖測定器(第一世代・水洗い式)が発売される(アメリカ)。従来の半定量測定から定量測定になる。
1974年 ロシュ:第一世代血糖測定器(水洗い式)を発売。



第一世代血糖測定器(水洗い式)「レフロマート」
1983年

ロシュ:第二世代血糖測定器(拭き取り式)を初の患者用測定器として発売。





第二世代血糖測定器(拭き取り式)「レフロラックス」

1991年 拭き取り不要の酵素比色法を採用した第三世代血糖測定器を発売(日本では1992年)。測定時間の短縮を実現。



第三世代血糖測定器(酵素比色法)「アクトレンド」
1995年

酵素電極法を採用した測定器を日本で発売。





第三世代血糖測定器(酵素電極法)「アドバンテージ」

2000年以降

身体に負担の少ない血糖自己管理のため、より短い測定時間、より少ない検体量、より痛みの少ない穿刺器具等の開発が行われている。

 

 

 

1.開発前史

 

有効な治療法がなく死に至る病だった糖尿病

 

     アルテウス

古代からあった糖尿病

糖尿病の歴史はかなり古く、紀元前1500年頃エジプトのパピルスにはすでに「極度の多尿」という記述があり 、紀元2世紀頃トルコ・カッパドキアの医師アレテウスが著した書物には、糖尿病についての詳細が記されています。 7世紀頃には中国の医師たちが、糖尿病の症状について議論をしていました。日本では平安時代の藤原道長が糖尿病であったと言われています。 古代から20世紀初め頃まで、糖尿病の治療法は絶食による飢餓療法しかなく、患者は合併症に苦しみながら死を待つだけの恐ろしい病でした。

 

すい臓と糖尿病の関係を発見

17世紀から19世紀前半にかけて、イギリスの医師たちが糖尿病疾患に関連した観察結果を発表。 1849年、フランスのベルナールが肝臓からグリコーゲンを発見し、動物における糖尿を誘発します。 1869年、ベルリン大学の学生ランゲルハンスはすい臓に消化液分泌細胞とは異なる細胞「ランゲルハンス島」を発見。 1889年には医学者メーリングとミンコフスキーが犬のすい臓摘出手術を行い、すい臓と糖尿病の関係を発見します。

 

インスリンの発見により治療法は劇的に進歩

1921年、カナダ・トロント大学のバンティングと助手のベストは、すい臓から分泌物の抽出物を生成することに成功。 これが後に「インスリン」と名づけられます。インスリンの発見が契機となり、その後糖尿病の治療は劇的に進歩することになります。 1922年世界初のインスリン治療患者トンプソン(14歳)は、インスリン注射により奇跡的な回復を遂げました。

 

 

2.第一世代血糖自己測定器(水洗い式)

 

 

簡易に検査できる試験紙の開発に成功

血糖測定器が開発されるまで、糖尿病患者は言うまでもなく病院で採血を行って血糖値を測っていました。 採血には時間も手間もかかり、患者には大きな負担でした。1956年、ロシュ(旧ベーリンガーマンハイム社)は、 ライセンス供与を受け尿糖の簡易測定ができる試験紙「Glukotest roll」を発売します。 その後、ロシュは開発を進め、自社独自のドライケミストリーという手法により、 これまでのウェット式に比べより簡易に検査できる試験紙「Comber Test」の開発に成功したのです。

光学反射式による最初の血糖測定器が発売

試験紙の普及に伴って、血糖用試験紙の開発が進められていきました。 そして、色調表による半定量測定が可能な血糖試験紙「Haemo-Glukotest」が開発、1968年に発売されます。 その後、血糖の測定を目視から自動評価ができる測定器の開発が進められるようになります。 1969年、米国で最初の血糖測定用機器が開発され発売されました。光学反射率を利用して測定するもので、 これまでの半定量測定から人の識別能力に左右されない定量測定を可能にする機器でした。 血液をつけた後、試験紙を水洗いして測定する、水洗い式と呼ばれる第一世代の測定器です。

 水洗い式血糖自己測定器「レフロマート」

信頼できる測定値の確保が可能に

ロシュは、1974年に水洗い式の小型簡易血糖測定器「レフロマート」を開発し発売します。 この測定器の登場により、信頼できる定量的な測定値を得ることが可能になりました。 しかし、水洗いの手間や採取する血液の量、機器の重量などの課題があり、それを解決するための開発が進められていきます。

 

 

3.第二世代血糖自己測定器(拭き取り式)

 

 

 第二世代血糖自己測定器(拭き取り式)

操作が簡便で測定値の精度も向上

1986年、水洗いが不要で以前より小型軽量化した血糖測定器が開発され発売されます。 第二世代と呼ばれる測定器の登場です。この測定器は、血中のブドウ糖と試験紙に含まれるブドウ糖酸化酵素との反応を、 血液の拭き取りによりストップさせ測定します。第一世代の測定器に比べ操作が簡便で測定値の精度も向上しました。 ロシュでは、1986年に「レフロラックスII」を、1988年「レフロラックスIIM」、 1989年「レフロラックスS」と、第二世代測定器を次々と発売。精度の高い血糖試験紙の開発とともに、測定器の普及に貢献しました。

健康保険の適用で市場が拡大

1981年、インスリンの自己注射に健康保険が適用され、 第二世代血糖測定器が登場した1986年にはインスリン自己注射患者に限り、 測定器に健康保険が適用されたこともあり、簡易血糖自己測定器市場は大きく拡大します。 血糖自己測定(SMBG)器時代の幕開けと言っていいでしょう。市場の拡大に伴って測定器の量産が可能になりました。 しかし、水洗いが不要になったものの、血液の塗布や吸い取り、比色測定の過程での患者の安定した技術も求められていました。

 

 

 

4.第三世代血糖自己測定器 (拭き取り不要)

 

 

各機能が一段と進化し使い勝手が向上

1990年代になると、血液の吸い取り・拭き取りが不要の測定器、第三世代と呼ばれる測定器が開発され発売されます。 操作がより簡便になったことにより、血糖自己測定器は急速に普及しました。酵素電極法、そして酵素電極法の血糖自己測定器は、簡単な操作性に加え軽量化、 血液採取量の微量化、測定精度の向上、測定時間の短縮化等、各機能が一段と進化し使い勝手が向上しています。

患者さまのニーズに合わせた血糖自己測定システム、

そして周辺機器・サービスの充実へ


現在では、初めての方でも使いやすい測定器、頻回測定に適した測定器、 そして穿刺時の痛み軽減を考慮した穿刺器具といった使う方のニーズに合わせた測定システムとして進化を続けています。 また、血糖パターンを理解するためのデータ管理システムやサポートツールなど、 よりよい血糖コントロールのための製品・サービスも充実してきています。

 

次世代測定器へ

1969年に最初の血糖自己測定器が登場して以来、血糖自己測定器は技術革新によって年々改良が重ねられ、 進化の一途をたどってきました。次世代の測定器として、穿刺の必要の無い非侵襲の血糖測定器が望まれ各所で研究が進められましたが、 現在のところ実用化には至っていません。近年では、皮下間質液中のブドウ糖を持続的に測定する持続血糖測定(CGM)器が発売されました。 これは SMBGとは別の測定器になります。 しかし、より良い血糖コントロールを目的とした製品・サービスの追及は今後も進んでいくことでしょう